費用が心配な方へ:教育訓練給付制度を活用したIT学習の始め方
経済的な理由から、ITスキルを身につけたり、資格取得を目指したりすることをためらっていませんか。学習費用や受講料の負担は決して小さくありません。しかし、国には、働く方のスキルアップやキャリア形成を支援するための公的な制度があります。その一つが「教育訓練給付制度」です。
この記事では、教育訓練給付制度がどのような制度か、IT関連の学習にどのように活用できるのか、そして利用するための具体的なステップについて、分かりやすくご説明します。費用負担を軽減しながら、ITスキル向上を目指すための一歩を踏み出すための情報として、ぜひお役立てください。
教育訓練給付制度とは
教育訓練給付制度は、働く方が主体的に能力開発に取り組むことを支援し、雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的とした雇用保険の給付制度です。厚生労働大臣が指定する教育訓練講座を修了した場合に、受講費用の一部が支給されます。
この制度には、主に以下の2種類があります。
- 一般教育訓練給付: 比較的短期間で修了できる講座が対象で、主に雇用の安定やキャリアアップに資する内容です。IT関連では、特定のソフトウェア操作、プログラミングの基礎、ウェブデザイン入門などの講座が該当することがあります。
- 専門実践教育訓練給付: 中長期的なキャリア形成に資する専門的・実践的な教育訓練が対象で、専門学校の課程などが該当します。IT分野では、高度なプログラミング、ネットワーク構築、情報セキュリティなどの専門的なスキルを習得する講座が多く含まれます。
この記事では、ITスキルの基礎習得や資格取得に役立つ可能性のある「一般教育訓練給付」を中心に解説を進めます。
一般教育訓練給付の概要
一般教育訓練給付は、厚生労働大臣が指定する講座を受講し修了した場合に、本人が支払った受講費用の20%(上限10万円)がハローワークから支給される制度です。
対象となる方
以下の支給要件を満たす方が対象となります。
- 雇用保険の被保険者期間:
- 初めて制度を利用する場合:受講開始日までに雇用保険の被保険者期間が満2年以上ある方。
- 過去に制度を利用したことがある場合:前回の利用から受講開始日までに雇用保険の被保険者期間が満3年以上ある方。(離職中の場合は、離職日の翌日から受講開始日までが1年以内であることなど、別途条件があります)
- 受講する講座: 厚生労働大臣が指定した教育訓練講座であること。
ご自身の雇用保険加入期間や、過去の受給歴については、最寄りのハローワークで確認できます。
支援内容
- 給付率: 教育訓練施設に支払った入学料および受講料の20%
- 支給上限額: 10万円
- 支給対象期間: 受講期間
利用方法・手続きの流れ
一般教育訓練給付を利用するためには、以下のステップを踏むことが一般的です。
- ハローワークでの相談・確認:
- まずは、ご自身が教育訓練給付制度の支給要件を満たすかどうか、最寄りのハローワークに確認してください。ハローワークの専門職員(キャリアコンサルタントなど)に相談し、希望するキャリアやスキル習得について話すことで、より適切な講座や支援についてのアドバイスも得られます。
- ジョブ・カードの作成: 支給要件照会やキャリアプラン作成のために、ジョブ・カードの作成を勧められる場合があります。
- 対象講座の検索・選択:
- 厚生労働省のウェブサイト「教育訓練給付制度 厚生労働大臣指定教育訓練講座 検索システム」を利用して、ご希望のITスキルに関する講座が給付制度の対象となっているか検索します。プログラミング、ウェブ開発、ITパスポート試験対策、簿記(ITと関連する会計ソフトなど)など、多様な講座が指定されています。
- 複数の講座を比較検討し、自身の目標やレベルに合った講座を選びます。
- 教育訓練施設への申し込み・受講:
- 選んだ教育訓練施設に直接申し込みを行い、受講料を支払って学習を開始します。
- 支給申請:
- 講座を修了した後、必要な書類を揃えて、管轄のハローワークに支給申請を行います。申請期間は、原則として修了日の翌日から起算して1ヶ月以内です。
- 必要な書類の例:
- 教育訓練給付金支給申請書(ハローワークで入手)
- 教育訓練修了証明書(教育訓練施設が発行)
- 領収書(教育訓練施設が発行)
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- 雇用保険被保険者証
- 払渡希望金融機関の通帳またはキャッシュカード
- 印鑑(シャチハタ不可の場合あり)
- ジョブ・カード(作成した場合)
- 申請書類や手続きの詳細は変更されることがありますので、必ず事前にハローワークでご確認ください。
- 給付金の受け取り:
- 申請内容に問題がなければ、指定した金融機関の口座に給付金が振り込まれます。
利用する上でのメリット・デメリット
メリット:
- 費用負担の大幅な軽減: 受講費用の20%が支給されるため、自己負担額を抑えて学習に取り組めます。
- 多様なIT関連講座が対象: プログラミング、ウェブデザイン、ネットワーク、資格取得対策など、幅広い分野の講座から選べます。
- キャリアアップの機会: 新しいスキルを習得することで、現在の職務での評価向上や、より良い条件での転職・キャリアチェンジの可能性が広がります。
- 公的な制度による安心感: 国が支援する制度であり、信頼性の高い教育訓練施設が指定されています。
デメリット:
- 支給要件がある: 雇用保険の加入期間など、利用できる条件が定められています。
- 対象講座に限られる: 自分が学びたい講座が必ずしも給付制度の対象となっているとは限りません。
- 一旦費用を立て替える必要がある: 給付金は講座修了後に支給されるため、受講期間中は一旦全額を自己負担する必要があります。
- 手続きが必要: ハローワークでの相談や申請手続きに時間と手間がかかります。
注意点
- 最新情報の確認: 制度の内容(支給要件、給付率、対象講座など)は改正される可能性があります。必ず厚生労働省のウェブサイトやハローワークで最新の情報をご確認ください。
- 教育訓練施設の選定: 制度の対象となっているかだけでなく、講座内容、学習環境、サポート体制などを十分に比較検討し、ご自身に合った施設を選びましょう。
- 支給は修了後: 給付金は講座を無事修了した場合に支給されます。修了条件(出席率や試験合格など)を確認し、計画的に学習を進めることが重要です。
その他のIT関連支援と相談窓口
教育訓練給付制度の他にも、ITスキル向上やキャリア形成に関する支援や相談窓口があります。
- ハローワークの職業相談・キャリアコンサルティング:
- ハローワークでは、個別の状況に応じた職業相談やキャリアプラン作成の支援を無料で受けられます。IT関連の求人情報提供や、職業訓練に関する情報提供も行っています。まずはハローワークで相談してみることをお勧めします。
- 各自治体独自の支援:
- お住まいの自治体によっては、独自の資格取得支援制度や学習支援を行っている場合があります。自治体のウェブサイトを確認したり、役所の担当窓口に問い合わせたりしてみるのも良いでしょう。
- 公共職業訓練:
- 雇用保険を受給している方などを対象とした公共職業訓練は、IT関連の専門的なスキルを比較的長期間(数ヶ月〜2年程度)無料で習得できる制度です。テキスト代などの実費はかかる場合がありますが、教育訓練給付制度と並んで費用負担を抑える有力な選択肢です。これについては、当サイトの別の記事でも詳しく解説していますので、そちらもご参照ください。
制度活用のポイント
- まずはハローワークに相談: ご自身の状況でどの制度が利用できるか、支給要件を満たすかなど、専門家に相談するのが最も確実な第一歩です。
- 複数の制度を検討: 教育訓練給付制度、公共職業訓練、自治体支援など、複数の選択肢を比較検討し、ご自身の目標や状況に最適なものを選びましょう。
- 情報収集を怠らない: 制度の内容や対象講座は常に変動する可能性があります。最新の情報は、ハローワークや各制度の公式サイトで確認するようにしてください。
- 学習目標を明確に: なぜITスキルを身につけたいのか、どのようなスキルが必要なのかを明確にすることで、最適な講座選びや学習計画が立てやすくなります。
まとめ
経済的な不安からITスキル向上を諦める必要はありません。教育訓練給付制度をはじめとする公的な支援制度を活用することで、費用負担を軽減し、新たな知識や技術を習得する道が開かれます。
まずは、ご自身の状況を確認し、最寄りのハローワークに相談することから始めてみてください。一歩踏み出す勇気が、IT分野での新たなキャリアや可能性へと繋がるはずです。この情報が、あなたの学習への挑戦を後押しできれば幸いです。